国家移民政策 オーストラリアに垣間見る「多文化主義政策」 日常生活に浸透するダイバーシティと移民への定住支援
18世紀よりヨーロッパからの移住が始まり、植民地としての歴史を持つオーストラリア。1901年、連邦政府が成立し「国家」が誕生。その後も移民を受け入れながら多民族・多文化国家を形成し発展を続けている。かつて有色人種の移民を禁止した白豪主義の時代を経て統合政策、そして多文化主義政策へと変遷を遂げたオーストラリアの日常は多様性に富み、各国の文化を尊重する姿勢は食生活、教育、週末のイベントにも反映されている。移民に対する無料英語レッスンや職業訓練、無料通訳といった移住後の公共のサポートも手厚い。オーストラリアの日常生活に浸透しているダイバーシティと政府による移民へのサポートについて、現地リサーチャーがレポートする。
③24時間365日無料で利用できる電話通訳サービス
オーストラリア政府は非英語圏からの移民の為に「TIS( and )」と呼ばれる電話通訳サービスを無料で提供している。TISは移民だけでなく留学生やワーキングホリデーでオーストラリアに滞在している人々も24時間365日利用が可能だ。
TISの歴史は古く、1974年オーストラリアへの移民人口の増加が始まった頃、英語での意思疎通が困難な移民が定住するために言語サービスの必要性が浮上したことが始まりである。現在はオーストラリア国内の3000人以上の通訳者と契約があり、対応言語は160カ国語以上にのぼる。
通訳サービスの使い方は英語に不安がある人も安心して利用できる仕組みになっている。ユーザーがTISに電話をかけ、日本語通訳を希望であれば「 」の一言で日本語通訳と繋がる。ユーザーが指定する機関・サービスに通訳者が連絡をし、三者通話が始まるシステムだ。
数カ月前にオーストラリアに移住した知人が、無料通訳サービスを利用して税務署に問い合わせをしたというので、感想を聞いてみた。
「TISに電話をすると、待ち時間なく日本語の通訳の方に繋がりました。通訳者は日本人男性でした。税務署のスタッフと三者通話はスムースに進み、無料通訳サービスのおかげで英語では説明が難しい手続きが不安なく終わりました」
医療や移住関連の手続き、警察への連絡、生活に必要な契約(電気や携帯電話、不動産)といった複雑なコミュニケーションが母国語でできるのは、滞在歴が浅い移民にとって心強い存在だ。
政府が移民に提供する無料英語レッスン
オーストラリア政府は1948年より移民向けの英語レッスン「Adult (AMEP)」を無料で開講している。AMEPでは移民が新しい生活に適応するため、時間無制限の英語レッスンとオーストラリア社会に関する知識を無料で学ぶことができる。
AMEPを提供している施設はオーストラリア全土に渡り、公式サイトより最寄りの校舎を検索し、英語力のチェックテストを受け、レベルにあったクラスへ参加するシステムだ。チャイルドケア(保育園)を併設している校舎では無料で託児サービスも受けることが可能。英語レッスンの修了後は現地で仕事を得る為の職業訓練クラスへの移行も可能だ。
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AMEPの広告は多言語に対応しており、到着間もない移民に母国語で参加を促している(画像:AMEP)
AMEPを修了した日本人女性から話を聞いてみた。
「AMEPでは多文化主義を掲げるにふさわしい多国籍の生徒が在籍していました。生徒たちの国籍は中華系・アラブ系・南米系など世界各国からの移民が集まっていました。年代も10代から70代と幅広かったです。私が入ったクラスでは日本人は私一人で最初は少々肩身の狭い思いをしましたが、クラスメイトは同じ移民という立場なので少しずつ仲良くなることができました」
AMEPはオンラインレッスンのシステムも整っており、遠方で暮らす人々やコロナ禍の外出規制で対面のレッスンができない時期は自宅でも英語レッスンの受講が可能である。コース修了後もクラスで知り合った先生・クラスメイトと連絡を取り合う参加者も多い。AMEPは英語レッスンだけにとどまらず、新天地での新たな人間関係を築くきっかけとしての側面も移民にとっては大きなメリットだ。
以上、オーストラリア生活における多文化主義の一例を紹介した。異なる文化・言語・宗教を尊重し、移民も社会の一員として多様性を包容する行政・地域社会の定住支援の取り組みは、実際にオーストラリアに移住した筆者も恩恵を受けている。今後、日本の移民政策の課題を考慮する際、オーストラリアの多文化共存の実態は参考になる点も多いのではないだろうか。
この記事は、TNCが主宰する世界70ヵ国100地域に暮らす約600人の日本人女性ネットワーク「」からの情報をもとに制作しています。日本と海外の価値を結ぶさまざまな企画・マーケティング分野で活躍しています。
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